鼠径部通症候群
鼠径部通症候群(そけいぶつうしょうこうぐん)(英語:Groin Pain Syndrome)は、主にスポーツ選手に多く見られる慢性的な鼠径部(そけいぶ=股の付け根あたり)の痛みを伴う症候群です
概要
- 鼠径部(そけいぶ=股の付け根あたり)周辺の慢性痛を特徴とする。
- サッカー、バスケットやハンドボールなど、繰り返しのキック動作や急な方向転換を行うスポーツに多い。
- 一般的には、明確な筋損傷や構造的損傷が画像診断で確認できないことが多い。
主な症状
- 鼠径部(恥骨の上あたり)に鈍痛や違和感。
- 痛みは運動時や特定の動作(蹴る・走る・捻る)で増強。
- 安静時には軽減する傾向がある。
- 片側性が多いが、両側に及ぶこともある。
原因・関与する構造
鼠径部通症候群は一つの原因ではなく、複数の要因が関与しています:
関与する筋・腱・構造
- 鼠径部関連
- 股関節関連
- 内転筋関連
- 腸腰筋関連
- 恥骨関連

これらの構造が反復的な剪断ストレスを受け、微細損傷・炎症が起こることで痛みが生じます。
診断
- 画像診断(MRIや超音波):他の病変(ヘルニア、疲労骨折など)を除外。
- 臨床テスト(抵抗内転テスト、Valsalva法など)
- 経過観察と運動誘発性の痛みが重要。


関連する疾患との鑑別
- 鼠径ヘルニア
- 腹腔内疾患
- 恥骨疲労骨折、大腿骨疲労骨折
- 股関節インピンジメント症候群、大腿骨頭壊死
- 腸骨棘剥離骨折
治療法
【1】保存療法(第一選択)
① 理学療法(リハビリ)
主軸となる治療。以下の3点が重要:
項目 |
内容 |
体幹(コア)の強化 |
腹横筋・内腹斜筋・骨盤底筋の活性化 |
股関節周囲筋のバランス調整 |
特に内転筋、腸腰筋、大臀筋の柔軟性と筋力強化 |
姿勢・動作パターンの改善 |
骨盤アライメント・体幹の安定性を向上 |
リハビリメニュー(初期例)
- 腹横筋のドローイン練習
- 股関節の内転・外転筋の等尺性トレーニング
- ブリッジ(骨盤の安定)
- サイドプランク(体幹・内転筋強化)
- 腸腰筋・内転筋のストレッチ


② 疼痛管理
- アイシング(炎症期)
- 内服外用
- 物理療法(低周波、超音波治療など)
【2】 注射療法(一部で検討)
- 局所麻酔薬 + ステロイド注射
- **PRP療法(血小板濃縮血漿)**なども、再生医療として試されることがあります。
回復の目安
保存療法で6~12週間で改善が見込まれることが多い
内容 |
|
急性期 |
炎症を抑え、痛みの軽減と患部の安静を重視 |
回復期 |
低負荷の筋トレ、可動域訓練 |
復帰準備期 |
スポーツ動作の導入(軽いランニング、方向転換など) |
競技復帰 |
全身的な動作統合、実戦的なトレーニング |
【3】手術療法(保存療法が無効な場合)
- 保存療法で改善しない重症例では手術(例えば腹壁補強術など)も検討されます。
まとめ
- 鼠径部通症候群はスポーツ選手に多く、筋力バランスや反復動作の影響が大きい。
- 診断が難しいため、他の障害との鑑別が大事である。
- 多くの場合、保存療法で改善が見込めますが、早期対応と専門家の評価が重要です。
執筆者: 院長 西原 淳