前十字靭帯断裂とは
前十字靭帯(ACL:Anterior Cruciate Ligament)は、膝関節の中心に位置し、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)をつなぐ靭帯のひとつです。この靭帯は、膝の前後方向の安定性を保つ重要な役割を果たしています。
前十字靭帯断裂とは、この靭帯が部分的または完全に切れてしまうケガのことで、スポーツ中や転倒時などに発生することが多いです。特に、急な方向転換やジャンプの着地時に膝がねじれることで断裂するケースがよくあります。
日本における前十字靱帯断裂の年間発生件数は、全国で約3万〜4万件と推定され、特に中高生の運動部活動においては年間約3,000件が報告されています。
主な原因
- サッカー、バスケットボール、バレーボール、スキーなど、他に多くの種目で受傷
- 急な方向転換やストップ動作
- ジャンプ後の着地ミス
- 交通事故や転倒
症状
- 膝から「ブチッ」という音が聞こえる
- 激しい痛みと腫れ
- 膝の不安定感(ガクッとする)
- 歩行困難、特に階段や坂道で不安定さを感じる
診断
診断には、スポーツドクターによる膝の不安定性検査(ただし急性期には判断が難しい)、レントゲン検査、MRI検査が用いられます。
当院には1.5T MRIがあるために、検査、診断可能です。
治療
治療は、損傷の程度や患者の年齢・活動レベルによって異なります。
保存療法(手術を行わない もしくは 手術がすぐにできない)
- リハビリテーション
- 装具の使用、テーピング固定
- 筋力強化による関節の安定化
リハビリテーションの流れ
- 急性期(受傷直後)
- 安静、アイシング
- 軽い可動域訓練(伸ばす・曲げる)
- 痛みと腫れのコントロール
- 腫脹改善期(1か月以降)
- 筋トレ(スクワット、ブリッジ、レッグカールなど)
- バランストレーニング(片脚立ち、バランスボード)
- 徐々に負荷を増やしていく
- スポーツ復帰時期(3~6か月以降)
- ジョギング
- 軽いジャンプ・方向転換トレーニング(無理しない)
- 競技レベルに復帰できるかどうかは不安定性の程度による。(競技復帰でできない場合もある)
-
- 膝のぐらつき(膝崩れ)がある場合、半月板損傷や軟骨損傷など二次的なケガをしやすい
- 不安定感が残る場合は途中で手術を検討することもある
- リハビリにかなり根気と自己管理が必要
手術療法(再建術)
断裂した靭帯の代わりに、腱(自分の腱やドナー腱)を用いて再建する
手術後は数か月のリハビリが必要
ACL再建手術とは?
断裂した前十字靭帯は縫うだけでは治らないため、自分の体の別の腱(移植組織)を使って新しい靭帯を作る手術です。
手術方法の流れ
- 関節鏡(カメラ)を使って膝の中を確認
- 大腿骨と脛骨にトンネル(穴)を作る
- 移植腱(グラフト)をそのトンネルに通して大腿骨側と脛骨側で固定
移植に使う材料
ハムストリングス(半腱様筋・薄筋)腱(太ももの裏)
膝蓋腱(お皿の下の腱)
大腿四頭筋腱(太もも前)
まれに人工靭帯や他人の腱(同種腱)も使われる
どれを使うかは年齢・運動レベル・医師の方針で決まります。
手術後のリハビリ目安
時期 |
内容 |
術後~2週 |
膝の伸展獲得、痛み・腫れのコントロール |
2~6週 |
徐々に荷重、可動域拡大、筋力訓練 |
2~3か月 |
筋トレ強化、バランストレーニング開始 |
3~6か月 |
ジョギング再開(医師許可後) |
6~9か月 |
スポーツ特有の動作練習 |
10~12か月 |
スポーツ復帰(競技レベルに応じて) |
手術のメリット・デメリット
【メリット】
- スポーツ復帰を目指せる
- 膝の安定性が高まる
- 二次的な半月板、軟骨損傷リスクを減らせる
【デメリット】
- 術後リハビリが大変(6か月から1年)
- 移植腱のゆるみ、再断裂
- 手術合併症(感染、血栓)
当院では前十字靭帯断裂の診察、検査、治療がすべて行えます。診療理念に沿って、患者様の症状や状況に応じて、治療プログラムを組みます。例えば以下の方はご相談ください。
- 膝を捻って、前十字靭帯断裂や半月板断裂が心配。検査をしてほしい。
- 前十字靭帯断裂と診断されて、手術を検討している。(院長の手術も可能、近隣、希望病院へ紹介も可能。手術後リハビリも当院で可能)。
- 引退や最後の試合が近いので、まずは保存療法を行ってほしい。
- 地元で手術をして、三重県に転居したのでリハビリができる病院を探している(主治医の先生の紹介状が必要)
- 仕事が忙しいので手術ができない、まずは保存療法を行うために、装具の相談やリハビリを行いたい
膝の外傷、不安定感でお悩みの方は一度ご相談ください。
執筆者: 院長 西原 淳