〒510-8123
三重県三重郡川越町豊田一色272-1

BLOG ブログ

肩こりと姿勢の関係と改善方法




 一般的に「肩こり」と称される頸部から肩かけての痛みは、国民が身体に感じる不調の中で最も多くを占める症状です(平成22年度国民生活調査)。多くの方が肩こりを自覚する一方で、医療機関(接骨院や整体を除く)での治療をうけている人は全体の約20%に止まるという現状があります。今回はそんな肩こりに関して姿勢との関係に着目してご紹介します。

 

◎肩こりとは

 肩こりは医学的な診断名ではありませんが、主に首すじや肩回りなどの肩甲骨から頭部・頸部の間にある筋肉が、張る、凝る、痛みがあるなどの症状がみられます。中には頭痛や吐き気などの症状を引き起こすこともあります。急激に発症するというよりは長時間のデスクワークなど同じ姿勢で長時間過ごしたあとに症状が増悪することが多いです。頸部筋筋膜症という診断名がつくこともあります。

 

◎頭頚部の解剖

 肩回りには多くの筋がありますが、その中でも肩こりに関係することが多い筋肉について説明します。

 肩回りには肩甲骨から頭や背骨にかけて付着する僧帽筋という筋肉や肩甲挙筋という筋肉や、背骨の後ろ側付近にあり、首や頭を後ろに反らす作用のある頭頸板状筋などがあります。これらの筋肉は体重の約10%ほどの重さがある頭部が前に落ちていかないように後ろ側から引っ張って支えているような働きの筋肉です。

 頸の背骨は頸椎といい、まっすぐではなく、やや前方向にカーブ(前弯)しています。このカーブにより頸部の筋肉が効率的に働くことで構造的に不安定な頸部で体重の10%ほどの重さのある頭部を支えています。

 

◎不良姿勢時の力学的負荷と肩こりの原因

 体重の10%ほどの重さがある頭部を支える頸部には首の角度によりかかる負荷が大きく変わってきます。

 頸が15度前に傾くたびに頸部へかかる負荷は2倍、3倍、4倍程度増えていくといわれており、その状態で長時間過ごしていると頭部を支えている頸部の筋肉たちは疲労困憊となり、血流が阻害されたり、硬くなってきたりし、肩こりの症状が出現してきます。また肩こりの症状がよく出現する僧帽筋上部は腕の動きに合わせて収縮する筋肉であり、肩や腕を動かす方法が理想的な方法でないと僧帽筋上部の過緊張に繋がり、肩こりの症状を引き起こすことがあります。また頭部が下がったような姿勢を続けていると頸椎の生理的な前弯が消失し、いわゆるストレートネックとよばれる状態となり、頸部の筋肉(頭頸板状筋など)が効率的に働きにくい状態となります。そうなると肩甲骨の挙上(肩をすくめるような動作)をする作用のある僧帽筋上部の力を頼ることで頭部を支えるように働くことになり、僧帽筋などの頸部の筋肉が常に緊張し、肩こりや首凝りの症状を引き起こしやすくなります。

 頸部の筋の隙間を頭部の表面を栄養している血管が通っているため、この頸部の筋の過緊張により血流が阻害され、頭痛を引き起こすことも多いです。

 

◎肩こりを改善、予防するには

 これまでのお話で肩こりの予防、改善には姿勢、特に頭の位置や肩甲骨の位置が重要であることが分かってきたのではないでしょうか。よくある日常生活での不良姿勢の修正方法を説明します。

 

【立位での不良姿勢】
 立っている姿勢では、耳垂(耳たぶ)、肩峰(肩の頂点)、大転子(ふともも横の骨)、膝関節前部(お皿の骨)、外果の前方を重心の線が通ることが理想とされています。特に肩こりの方では耳垂の位置が前に偏移しているいわゆる猫背の姿勢の方が多いです。この姿勢を正すためには、①頭のてっぺんが上に伸び、②耳と肩が近づかず、③お腹をすこし薄くし、④肩甲骨を内側に寄せて無理に胸を張ろうとしないとよい姿勢を取りやすいです。




【座位での不良姿勢①:デスクワーク】
 デスクワークの方は、耳垂、肩峰、大転子が一直線上になるように座ると頸部の負担は軽減します。ただし、この姿勢をとるためには頸部だけでなく、腰部や腹部、股関節周囲の筋力、可動域や使い方に問題ないことが必要なため、リハビリテーションでこのような身体の使い方を練習することもあります。



【座位での不良姿勢②:スマホ】

 日常生活の中でこのような姿勢をとってしまっている方は多いのではないでしょうか?一時的にこのような姿勢を取ることは大きな問題ではありませんが、このような姿勢だけで普段過ごしていると前述のストレートネックになりやすく、頸部や腰部のトラブルを抱えやすくなります。椅子に座るときは背もたれにもたれる場合は深く腰掛け、目線が下がりすぎないようにスマホ側を少し上に持ち上げると頸部に負担の少ない座り方となります。






◎肩こり(頸部筋筋膜症)のリハビリテーション

【①頸部の筋緊張緩和のための徒手療法】

 頸部の緊張に対して徒手的にストレッチなどをすることがあります。ただし、肩こりの原因である姿勢の不良や動作の不良を改善しなければ徒手的な治療だけでは根本的に改善することは難しいことが多いです。

【②姿勢・動作指導】

 肩こりの改善で一番重要な日常生活での姿勢・動き方の改善です。

【③良好な姿勢を楽に取るための頸部・体幹・肩甲帯の筋力増強運動や可動域改善】
 良い姿勢が取れるようになると身体はすごく楽に動かせます。ただし、現在、良い姿勢をとれない方は可動域や筋力の低下により、良い姿勢を作ろうとするとさらに疲れるといったことが出てくる場合もあります。それぞれの身体の状態を適切に評価し、段階的に機能を高めていくことが重要です。

 

◎肩こりを放置していると…

 肩こりが生じるような不良姿勢を続けていると次第に骨や靭帯にストレスがかかり、頚椎症、頚椎症性脊髄症や神経根症や頸椎椎間板ヘルニアなどのその他の疾患の受傷にもつながっていきます。将来の整形外科的な疾患の受傷の予防のためも、一度自身の姿勢を見直して、痛みなどの症状があるようであれば、受診されてみてはいかがでしょうか。

 

執筆者: 理学療法士 小林 拓未